前回のコラムにて、「所得が何かという概念は実は複数あります」と取り上げさせていただきました。
どんな種類があるか、その内容については国税庁のホームページにも記載されていますが、
あえて列挙だけしますと、
1:利子所得
2:配当所得
3:不動産所得
4:事業所得
5:給与所得
6:退職所得
7:山林所得
8:譲渡所得
9:一時所得
10:雑所得
以上、十の柱によって所得税は構成されています。
まず、個人がその年内に取得した利益が、どのような性質を持つものなのかによって、それぞれの所得へと分類し、それぞれに定められた計算方法によって税額を計算します。
昨今では、【10:雑所得】が、仮想通貨の利益に該当するという国税庁の発表もあってか、非常に注目されていることでしょう。
ですが、我々にとってそれ以上に無視できない存在は、【4:事業所得】と【5:給与所得】です。
他の所得も、もちろん関わってきますが、比重的には前述の2柱が最も大きな割合をしめています。
今回は、時期的に年末調整を鑑み、【5:給与所得】について取り上げていきたいと思います。
給与所得は言うまでもなくサラリーマンがもらう給料や賞与であり、平成27年時点でも日本には5千万人以上のサラリーマンが存在します。
当時の日本の人口が約一億二千万であることを考えれば、その割合の大きさに気づくことでしょう。
この給与所得と対比されるものが事業所得です。
こちらは、事業を行ったことで得た収入であり、自身の名前を看板として掲げ、収入を得ているという点で異なります。
端的に多少の語弊がある事を覚悟で表現すれば、お金が入ってくる経路が、直接的か間接的かの違いです。
・給与所得:一度売上のお金が会社に入り、その後給与として入ってくる。
・事業所得:その方(事業主)へと直接お金が入る。
もちろん、業態によっては一概に言えませんが、ベースとなるのは上記の通りです。
ですが、前者と後者では、リスクや費用の負担など、様々な面で稼ぎ方が異なります。
そのため、所得税法ではその違いに着目して、それぞれ所得の金額の計算(税額を計算する前段階)について、異なる扱いを規定しているのです。
基本的に、【所得】=【利益】であり、【売上(=収入)】ではありません。
事業所得においては、当然のことながら売上が存在すると同時に、その事業を行う上でのオフィスや店舗の賃料、水道光熱費、人件費、広告宣伝費など様々な支出が生じます。
これらはその事業における売上を得るために投入した資金であり、これらが所得税法における必要経費で、売上からの控除を認めています。
一年間の売上の合計である【総収入金額】から、一年間で支出した【必要経費】を引いて、事業所得の金額を計算することになるのです。
では、給与所得はどうか。
実際に、サラリーマンの方で、自身の一年間の経費を集計・計算されている方はいらっしゃるでしょうか。
各種所得控除のために、という事例はあるかもしれませんが、一年間の収入に対応する支出を集計する、ということはないでしょう。
基本的に、給与所得者=サラリーマンが働くために必要な支出は、会社などの組織が負担しているためです。(自腹を切る、という場合もあるでしょうが、今回は除外します)
これは、責任・リスクの問題も絡みます。
事業主は売上がなければ倒産するリスクがあり、給与所得者は労働法上の保護など安定的な収入を得られるからです。
そういった背景も有り、給与所得は法律で定められた【給与所得控除額】を一年間の収入から控除することで、給与所得の計算をします。
これは、いわば事業所得における【必要経費】と同じ位置づけのものですが、【必要経費】がその上限がないのに対し、【給与所得控除額】には天井が有ります。
言い換えれば、【必要経費】は実際に支出がなければならないのに対し、【給与所得控除額】は、一円の支出がなくとも、決まった金額を経費とすることができる制度です。
いわゆる【103万の壁】と呼ばれるものは、この【給与所得控除額】と、所得が確定した後に、その合計所得金額から誰もが控除できる【基礎控除】の合計となります。
✿参考コラム:103万の壁について
・【給与所得控除額=55万(最低でも認められる金額)】
・【基礎控除=48万(誰でも必ず認められる金額)】
➔ 55万+48万=103万
この103万までは所得税が課されないために、【103万の壁】と呼ばれる所以となったのです。
大本へとたどれば、1913年に導入された【勤労控除】に由来します。
これは、一年間の総収入の10%を天井なしに控除できるもので、その後様々な改正をへて今の形へと落ち着いています。
当然、その変遷においては問題も有り、大きな事件として大島訴訟があります。
詳細は割愛させていただきますが、
「個人事業主は実費で必要経費が計算できるのに、サラリーマンができないのは不平等ではないか」
という内容の訴訟です。
裁判の内容としては、実費がその仕事に必要なものであったかの立証がメインであり、結果的にはその証明ができなかったために敗訴となりました。
ただし、この事件をきっかけに、給与所得者であっても、所定の要件を満たせば事業所得者と同じように実額の必要経費の控除が認められる制度(特定支出控除)が、昭和62年に作られます。
というのも、給与所得控除額は、つまるところ概算控除です。
ですが、現実問題として、その年内に給与所得を得るにあたって支出した金額が、その概算額を上回る可能性もあります。
そうなった時、概算と実額で差が生じ、給与所得者だけが不当に税負担を強いられている、という主張があったのです。
この大島訴訟を契機として問題提起されたことで、最高裁判決から二年後に税制改正を促した、という意味合いで、当該事件は社会的に大きな影響力のあった事件でした。
ただし、特定支出控除は、平成24年に緩和がされたとはいえ、要件があります。
時折、「サラリーマンのスーツ代も経費にできる」と行った文言が見受けられますが、100%可能とは断言できません。その要件に合致するか試算する必要があります。
当然、この特定支出控除は年末調整ではできません。
利用するには確定申告を行う必要があります。
弊所では、給与所得者の方の確定申告も承っています。
上記制度のご利用、相談も受け付けておりますので、お気軽にご連絡頂ければと思います。
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